光ファイバー環境モニタリングとはなんぞや
光ファイバーはファイバー内が鏡面のような性質の材料を使っており、ファイバー内の鏡面反射を利用して、光の損出をなるべく減らして遠くへ届けるために作られた材料です。
この光ファイバーケーブルに測定用の光を発光させ、ファイバー内の反射光の特性を読み解くことでファイバーが敷設された環境の状態を観測する技術のことを光ファイバモニタリングと一般的に呼ばれている。
反射光には色々な種類があり、測定用の光から様々な反射光を読み取ることで、物理現象を把握するという思想です。
NTT東西では既に全国に張り巡らせた光ファイバ網を持っているため、このファイバーをセンシングすることで、日本中のあらゆる場所のさまざまな環境データを収集することが期待できる。
出典:つくばフォーラム2022 技術交流サロン2 光ファイバ環境モニタリング〜新たな価値の創出に向けて〜
光ファイバーを使った環境センシング まとめ
- 従来のセンシングデバイスとは異なり無給電で収集が可能
- 光ファイバーのみで様々なセンシングが可能
(センシング情報に特化したデバイスをいくつも用意する必要がない) - 日本中の人工カバーエリアほぼ100%でセンシングが可能
(NTT東西の光ファイバー敷設エリア展開が既に成熟しているため)
2024.5.24追記
測定を行う場合、センシング以外の光との重畳不可
NTT東西の光ファイバーの内、フレッツ光等のサービスで利用されている現用ファイバーでのセンシングは不可
- キャリブレーション(別途詳細記載)
測定対象の光観測光の微細な変化と物理現象の関連付け - 測定エリアのピンポイント把握方法
- 測定光の切り替え方法
(NTT東西の膨大なファイバーの中から、測定方路へ自由に測定光を発光させる方法)
ファイバーセンシング 実現方法
ファイバー内に測定用の光を発光させ、観測光の変化(散乱光)の特徴を分析することで起きている物理現象を推定する。
散乱光には様々な種類があり、状態に応じて顕著に反応する特性を利用して光ファイバ内の状態を測定する。
散乱光:種類 | 反応する現象 |
レイリー散乱 | 損失・振動 |
ラマン | 温度 |
ブリルアン | 歪、温度 |
出典:つくばフォーラム2022 技術交流サロン2 光ファイバ環境モニタリング〜新たな価値の創出に向けて〜
散乱光の発生原理について

レイリー散乱
ファイバー内に発光する光の波長よりも十分に小さい粒子に光が衝突することで、散乱光が出る現象のことみたいです。
自然現象でわかりやすいのは、昼に空が青く、夕方は空が赤くなる現象です。
これもレイリー散乱によって起こる現象で、太陽光は「赤橙黄緑青紫」の波長の異なる光からなる可視光ですが、紫に近い光の方が波長が短く、細かい振動をしているため、大気中の粒子にぶつかりやすく散乱しやすい。一方で赤色は波長が長いため、粒子にぶつかりにくく直進性がある。
光ファイバー内でも同じように波長毎の特性を観測ができる。

レイリー散乱の特性が顕著に現れるのが、ファイバーの振動という関連性はよくわからなかった。。この辺りは専門の方に伺いたいところです。。
ラマン散乱・ブリルアン散乱
ラマン散乱
光が物質に入射して分子と衝突すると、その一部は散乱されます。この散乱光の波長を調べると、大部分の成分は入射光と同じ波長(レイリー散乱光)ですが、極わずかな成分として、入射光と異なった波長の光が含まれています。この入射光と異なった波長をもつ光のことをラマン散乱と呼ぶ
出典:nanophoton

要するに、レイリー散乱光が発生する過程で、入射光の光の波長が変化した反射光らしい。
詳しくはよくわかりません。
ブリルアン散乱
ブリルアン散乱とラマン散乱は両者とも光と準粒子の非弾性散乱を表現しているという点で似ているが、周波数変化の幅と試料から引きだせる情報において差異がある。 ブリルアン散乱というと準粒子による光子の散乱を意味するが、一方ラマン散乱は分子の振動・回転状態の遷移によって光子が散乱されることを意味する。
それゆえ両者が試料から引きだす情報は大いに異なっている。 ラマン分光法は化学組成や分子構造を決定するのに用いられるが、対してブリルアン散乱ではより大きなスケールでのふるまい、たとえば弾性現象などを調べることができる。 実験的には、ブリルアン散乱による周波数変化は干渉計を用いて計測されるが、ラマン分光法での実験系では干渉計か分散回折分光計のどちらでも用いうる。
出典:wikipedia

ここまでくると全然わからない。。。
とりあえずラマンに似てるけど、似て非なる散乱光らしい。

光ファイバーセンシングの強み・弱み
昨今はIoTデバイスを使ったセンシング技術が対抗馬として考えられる。
IoTと比較した場合の光ファイバセンシングのメリット・デメリットは以下の通り。
メリット
“測定スケール”、“維持メンテの容易さ”
デメリット
“イニシャルコスト”、“センシングの正確さ”
順に詳しく解説すると、、、
メリット:測定スケール
光ファイバーセンシングでは、地中や、電柱に敷設する光ファイバーケーブルの全長全ての区間で現象の測定が可能になります。
IoTデバイスはデバイスを設置したピンポイント“点”な測定しかできないのに対して、光ファイバーを引き回した“線”で現象を捉えることができる。
さらに、光ファイバーの線を、NTT東西の様に街中に張り巡らせることで、線での測定から、“面”的測定することが可能になり、極端な話、街中の任意のスポットでセンシングが可能になる。
メリット:維持メンテの容易さ
IoTデバイスはそれ自体を動作させるために多くの場合給電が必要になる。
また、デバイス自体の故障や環境耐性(熱や防塵、防水等)も機械の類あたるため難しい。
一方で光ファイバー自体はガラス繊維の単純な作りかつ、ファイバー自体は給電の必要もない。
さらにファイバー内に常時流れる光によってファイバー自体の欠損も把握することが容易。
保守者によって嬉しいセンシングデバイスである。
デメリット:イニシャルコスト
光ファイバーを測定したいところに引き回す必要がある。
新規参入することを前提とすると、ファイバーを測定元の発光源から、測定対象の環境まで引き回すのはほぼ不可能。
(測定環境にIoTデバイスをばら撒いて、無線で情報集める方が遥かに安価)
NTTや、地域通信事業者(電力系会社等)でないとほぼコスト面から厳しい。
デメリット:センシングの正確さ
IoTデバイスでは測定したい現象に特化したセンシングデバイスを配置するのが一般的なため、正確な測定が可能。
IoTデバイスのセンシング例:
・温室ハウスの温度管理 ⇨ 温度計で温度を直接観測
・地震観測所 ⇨ 地震計で揺れを観測
・騒音管理 ⇨ 騒音計でdBを観測
光センシングでは散乱光の特性から現象の推定をしないといけない。
散乱光自体の変化測定が高精度である必要や、変化とその物理事象を関連づけるAI学習を高度化する点において課題があるため、正確性には現在の技術ではIoTデバイスに軍配があがる。
出典:つくばフォーラム2022 技術交流サロン2 光ファイバ環境モニタリング〜新たな価値の創出に向けて〜
光ファイバーセンシングの活用事例
光ファイバーセンシングのデメリット(正確さとデメリット)の影響を受けづらい使い方が現時点での活用方法として検討されている。
要するに、大雑把なセンシングでOK、スポットエリアだけ測定したい というケースで利用が期待できる。
振動はさまざまな現象とセットで必ず起こる(車の動き 道が揺れる、地震はもちろん)
出典:つくばフォーラム2022 技術交流サロン2 光ファイバ環境モニタリング〜新たな価値の創出に向けて〜
上記導入事例では重要施設のフェンスと一緒に光ファイバーを合わせて敷設することで、フェンスの振動を観測し、施設への侵入を観測する。
上記では単にフェンスが揺れただけではなく、散乱光から“フェンスに何が起きたのか”までを詳しく読み取れることに取り組んでいる。
単に定常時の散乱光からの変化だけでなく、物理現象の高度な学習もAIによる機械学習等と組み合わせることで把握する技術が研究されている。
ただし、光の特性だけで、“ズバリ〇〇が発生した!”とまで、センシングすることは難しいため、光センシングとIoTデバイスの組み合わせ技術等も並行して検討さているとのこと。
技術課題に対する取り組み
測定光の切り替え方法
NTTでは日本中に張り巡らせた光ファイバを持っているが、測定光を発光させる(反射光を受信し分析する)ための機械については既設設備がない。
光センシングではこの測定機自体がIoTデバイスと比較して高額になるため、いかにコストをかけず測定機を配置するかが課題とされている。
NTTでは光ファイバー1本1本に測定光を流すために測定機を1本づつつなぐのは非常にコストがかかることから、いわゆる光SWとそれを制御するOpS(Operation System)を用いることで、測定光を意図した光ファイバーへ自由に切り替える仕組みを検討している。(NTT IOWN構想のうちの一つ)
出典:つくばフォーラム2022 技術交流サロン2 光ファイバ環境モニタリング〜新たな価値の創出に向けて〜
測定エリアのピンポイント把握方法
分散光を解析する際の波長を分ける能力のことを分解能と呼ぶが、この分解能は変異が起きた場所(距離)を把握する空間分解能、温度の変化を把握する温度分解能等がある。
現状、この分解能の精度が求められる微細な変化の把握には課題があり、まずは高精度な分解能が求められないようなセンシングを行なっていく方針とのこと。
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